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2026年7月1日水曜日

殺し屋が殺し屋を外注する5連鎖。 中国で起きた前代未聞の「5重下請け暗殺計画」という喜劇

前代未聞の5重下請け暗殺計画の全貌と中国南寧市中級人民法院による有罪判決

殺し屋が殺し屋を外注?前代未聞の「5重下請け暗殺計画」の全貌

ビジネスの世界において、仕事の「デリゲーション(権限委譲や外注)」は効率を高める鍵とされています。しかし、何事にもやりすぎは禁物です。

2013年、中国である実業家が企てた「ライバル暗殺計画」は、あまりにも外注を重ねすぎた結果、恐ろしく滑稽な結末を迎えることになりました。首謀者が雇った殺し屋が別の殺し屋を雇い、それがさらに別の殺し屋へと「孫請け」「曾孫請け」されていったのです。今回は、裁判所の公式記録にも残されている、世界で最も不条理な「5重下請け暗殺未遂事件」の全貌に迫ります。

始まりは些細な不動産トラブル:法廷闘争を「物理的排除」で解決しようとした男

物語の舞台は2013年、中国南部の広西チワン族自治区南寧市。すべての始まりは、地元の不動産開発業者である覃佑輝(タン・ユーホイ)という実業家でした。

タンは、別の実業家である魏(ウェイ)という人物と共同の不動産開発プロジェクトを巡って激しいトラブルを抱えていました。ウェイはタンに対して民事訴訟を起こしており、タンはこの法廷闘争が長引けば、自身が莫大な経済的損失を被るのではないかと極度に恐れていました。

普通のビジネスパーソンであれば、優秀な弁護士を雇うか、示談交渉のテーブルに着くところです。しかし、焦燥しきったタンが導き出した解決策は極めて恐ろしいものでした。「ウェイさえこの世からいなくなれば、裁判は終わるのではないか」と考えたのです。

そう考えたタンは、ウェイの暗殺を実行するため、裏社会の仲介者である奚広安(シー・グアンアン)という男に接触します。タンはシーに、ウェイの身分証明書のコピー、携帯電話番号、車のナンバープレートを渡し、前払い金として200万元(当時のレートで約28万ドル、日本円で約3,000万円相当)の現金を個人的に手渡しました。

報酬200万元が5%にまで激減!中抜きを繰り返した殺し屋たちの「バケツリレー」

ここから、この恐るべき陰謀は一転して、誰も責任を取りたがらない「最悪のグループワーク」のような泥沼のアウトソーシング合戦へと突入します。

最初の殺し屋であるシーは、大金を手にした瞬間にこう考えました。「自分で手を下してリスクを冒す必要はあるだろうか? 誰か別の人間に安くやらせれば、自分は何もせずに大金を手に入れられるのではないか」と。シーはすぐさま、莫天祥(モー・ティアンシャン)という男を雇い、莫に100万元を渡して「お前の問題だ、頑張れ」と仕事を丸投げしたのです。シーは一切動くことなく、最初の支払いの半分にあたる100万元を懐に収めました。

しかし、雇われた側の莫もまた同じことを考えました。「刑務所に行きたくない」と考えた莫は、さらに別の殺し屋である楊康生(ヤン・カンシェン)を雇います。莫が提示した報酬はさらに削られ、手付金として27万元、任務完了後に50万元を支払うという約束でした。

この連鎖はここで止まりません。楊康生もまた「外注」を決意し、名前の響きがそっくりな楊広生(ヤン・グアンシェン)という別の殺し屋に、手付金20万元、成功報酬50万元の条件で仕事を丸投げします。そしてさらにその楊広生も、5人目の殺し屋となる凌顕四(リン・シアンシー)に「10万元でウェイを殺してほしい」と依頼したのです。

最初の段階で約3,000万円あった暗殺予算は、下請けを繰り返すうちに、最終的にはたったの15万元(約150万円、手付金としては10万元)にまで目減りしてしまいました。元の金額のわずか5%です。この伝言ゲームのような引き継ぎは、毎回ターゲットの情報(身分証のコピーや写真入りのスマートフォン)と一緒に、淡々と次の下請けへと受け継がれていきました。まさに「世界最悪のオンボーディング(引き継ぎ)資料」です。

「10万元じゃ割に合わない」:5人目の殺し屋が持ちかけた「狂言殺人」

この壮大な下請けチェーンの終着点となったのが、5番目の殺し屋であるリンでした。提示された報酬はわずか10万元。リンは、暗殺対象のプロフィールを見つめながら、現実的な問題に直面します。「たった10万元のために人を殺して、終身刑や死刑になるリスクを背負うなんて、どう考えても割に合わない」と。

ここまでの4人は「さらに安い下請けを探す」という選択をしましたが、これ以上金額を下げれば、もはやアルバイト並みの報酬になってしまいます。そこでリンは、これまでの誰もが思いつかなかった、驚くべき行動に出ました。なんと、ターゲットであるウェイ本人に直接会いに行って、交渉を持ちかけたのです。

リンはウェイに連絡を取り、南寧市内の喫茶店で会う約束を取り付けました。見知らぬ男から呼び出され、カフェの席でこう告げられたウェイの心境は、恐ろしいものだったに違いありません。

実は、あなたを10万元で殺してほしいと頼まれました。でも、そんな端金のために人殺しをするなんてバカげています。そこで提案なのですが、あなたの死を偽装しませんか?

あまりにも突飛な提案でしたが、殺されたくないウェイはこの奇妙な取引に応じることにしました。

二人は協力して「狂言殺人」の証拠写真を撮影することにしました。ウェイは自ら手を後ろに縛られ、床に横たわり、いかにも「拘束・殺害された直後」に見えるような姿勢をとりました。リンはこの写真を撮影すると、上流の下請けへと送り返しました。写真は下請けチェーンを逆流し、最終的に首謀者タンの元へと届きました。この信じられないほどずさんな中抜き組織は、誰も現場を確認することなく、たった1枚の写真を見て「よし、計画は完了した」と全員が納得したのです。

間抜けな計画の崩壊と全員への鉄槌:南寧市中級人民法院による最終判決

首謀者たちが「これで一安心だ」と胸を撫で下ろしている頃、ターゲットであるウェイはどこにいたでしょうか。彼は、リンから手渡された「自分の個人情報がたっぷり詰まった白いスマートフォン」を携えて、警察署に向かっていました。

ウェイから「この男が、あの男に頼まれたそのまた別の男が私を殺そうとしたのですが、偽装写真を撮って協力しました」という、あまりにも複雑すぎる相関図を聞かされた警察官たちも、最初は耳を疑ったに違いありません。

しかし、証拠のスマートフォンやメッセージ履歴を捜捜していくうちに、この信じられない「5重下請けルート」の存在がすべて明らかになり、首謀者タンを含む6人全員が逮捕されました。

2016年に最初に行われた裁判(一審)では、証拠不十分として被告人6人全員が無罪(放免)となる驚くべき事態が起きました。生き残ったはずのウェイにとっては、自分を殺しようとした面々が全員釈放されるという、悪夢のような状況でした。

しかし、検察側は諦めずに判決を不服として控訴。それから3年間にわたる法廷闘争の末、2019年10月、南寧市中級人民法院(地裁に相当する中国の司法機関)によって、ついに全員に対して有罪判決が下されました。

  • 首謀者・タン:懲役5年
  • 1次請け・シー:懲役3年6ヶ月
  • 2次請け・モー:懲役3年
  • 3次請け・ヤン:懲役3年
  • 4次請け・ヤン:懲役3年
  • 5次請け・リン(告発者):懲役2年7ヶ月

全員が「自分が刑務所に行かないように」と外注を繰り返した結果、全員が仲良く刑務所に送られるという、完璧な因果応報の結末を迎えたのです。

📚 引用・リサーチ元リファレンス

南寧市中級人民法院 (Nanning Intermediate People's Court) 公式裁判記録: 首謀者および5人の下請け殺し屋に対する「故意殺人罪」の有罪判決の概要

中国・新華社通信および各種地元メディア: 2019年10月の最終判決に関する詳細な報道

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